真島社労士塾トップ > 実務はこんなにおもしろい!> 第6回 真島社労士塾

(第6回):雨宮直樹先生



 こんにちは、社会保険労務士の雨宮です。

 早いもので、今年ももう3月。来月からは、真新しいスーツに身を包んだ新入社員が町に溢れる季節となりました。身のこなしがどことなくぎこちなく、それでいて、晴れて会社員となった喜びが周りにも伝わってくるのは、昔も今も余り変わらないように思います。

 さて今回は、パートタイマーについてお話しようと思いますが、前回の労働契約で「契約の終了」について触れられませんでしたので、そこから進めていくことにいたします。

≪契約の終了について≫

 労働契約は、最後には終了することになります。突然終了する場合もありますし、予定通り終了することもあります。また、意に副わず終了してしまうこともあります。

 社員が死亡した場合には、突然契約終了となります。幸いにも、このケースにはまだ遭遇していませんし、できれば今後もあって欲しくないと願っています。

 定年で退職する場合や契約期間の満了が、予定通りの契約終了です。

 そして、意に副わない終了が、退職勧奨や解雇などです。本人は辞めるつもりはないのに、退職を迫られるのですから、それは意に副わないでしょう。会社から「クビだ!」といわれるのですから、更に意に副わないことになりましょう。
意に副わないどころか、場合によっては、戦闘態勢に突入し、「納得できないので訴える」などとごたごたするかも知れません。
 解雇者は出ないに越したことはありません。

解雇(労働契約法16条)
 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 これは、元々裁判の考えを労働基準法に盛り込んだもので現在は労働契約法に移行されましたが、いずれにしても権利の濫用は無効だと言っています。

〜日本語に挑戦〜

 抽象的な言い回しで何とも掴みようがありませんが、せめて日本語の意味を考えてみるのも一つの手かも知れません。

 権利の濫用ですので、権利があるからといって、「程度を越してむやみに使ってはいけませんよ。」ということになります。よく耳にする言葉に「職権濫用」があります。

 客観的の反意語は主観的、これは一発で良さそうですね。合理的は理にかなっている、道理にあっているとなりましょうか。社会通念は、社会の人が共通にそう考えるということですから、社会通念上相当でないとは、多くの人がそうは考えないことと言えましょう。

 「主観的で道理に合わない、そして、多くの人がそうは考えないような解雇はむやみにしてはいけませんよ。」と日本語に翻訳することにします。

 単に「顔が気に入らないからクビ」は【主観的】で【道理】にあっているとは言えないでしょうし、社会通念からいっても【それはちょっとね】となりそうです。
また、「態度が気に入らないからクビ」も、それだけでは問題がありそうです。

 折角ですから、判例を一つだけ見ておくことにしましょう。

高知放送事件(昭和52年1月31日最高裁判決)
 2度にわたり宿直勤務の際、寝過ごし、朝6時からの定時のニュースを放送できなかったアナウンサーを解雇した放送会社に対して、従業員としての地位確認が認められた事例ですが、最高裁判所は次のように判断しました。

 本件の事実に照らせば、被上告人(X)の行為は就業規則所定の普通解雇事由に該当するものというべきである。しかしながら、普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のものにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効となるものというべきである。
 本件においては、Xの起こした2回の放送事故は、定時放送を使命とする上告会社(Y)の対外的信用を著しく失墜するものであり、また、Xが寝過ごしという同一態様に基づき特に2週間に2度も同様の事故を起こしたことは、アナウンサーとしての責任感に欠け、更に、第2事故直後においては率直に事故の非を認めなかった等の点を考慮すると、Xに非がないということはできないが、他面、原審が確定した事実によれば、
@ 本件事故は、いずれもXの寝過ごしという過失行為によって発生したものであって、悪意ないし故意によるものではなく、また、通常はファックス担当者が先に起きアナウンサーを起こすことになっていたところ、本件第1、第2事故ともファックス担当者においても寝過ごし、定時にXを起こしてニュース原稿を手交しなかったのであり、事故発生につきXのみを責めるのは酷であること
A Xは、第1事故については直ちに謝罪し、第2事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力したこと
B 第1、第2事故とも寝過ごしによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえないこと
C Yにおいて早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったこと
D 事実と異なる事故報告書を提出した点についても、1階通路ドアの開閉状況にXの誤解があり、また短期間内に2度の放送事故を起こし気後れしていたことを考えると、右の点を強く責めることはできないこと
E Xはこれまで放送事故暦がなく、平素の勤務成績も別段悪くないこと
F 第2事故のファックス担当者Aはけん責処分に処せられたにすぎないこと
G Yにおいては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったこと
H 第2事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表していること

 等の事実があるというのであって、右のような事情のもとにおいて、Xに対し解雇をもってのぞむことは、いささか過酷に過ぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある。従って、本件解雇の意思表示を解雇権の濫用として無効とした原審(高松高裁、昭和48年12月19日判決)の判断は、結局、正当と認められる。

 @からHのような事情のもとでは、解雇は、合理的ではないし社会通念上相当ではないと判断しました。つまり、「寝過ごして放送できなかったのは本人も悪いけど、事情をよく検討したら解雇はちょっと行き過ぎですよね。」と言っています。


〜ここで一息、ちょこっと、コーヒータイム〜

 「どうも〜なので、クビにしたいのですが?」と聞かれたら・・・
「それは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないので無効です!」
とは言えませんよね。
 『やわらか頭を忘れずに』、日頃から心がけておきたいものです。

 それでは本題のパートタイマーのお話に移りたいと思います。

≪パートタイマーについて≫

 学生時代に習ったドイツ語で、未だに覚えているものが2つだけあります。
「デル、デス、デム、デン」と「イッヒ、アルバイト・・・」です。後はすっかり忘れてしまいました。

 この「イッヒ、アルバイト」を訳すと、「私は、バイトをする」と思いきや、実は、働くことを向こうの言葉では「アルバイト」と言っていたのです。
日本では、学生さんたちの会話で、「今日はバイトだからさ」とか使っていますが、本来はちょっと違うようです。

 正社員もパートタイマーも、それにバイト君もみんな「アルバイト」しているのです。

社員の呼び名は、正社員、パートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣社員など様々な呼称がありますが、どこにその定義があるのでしょうか?

労働基準法では、しきりに「労働者」といっていますが、ズバリ正社員などとその呼び名を定義している個所は見当たりません。また、パートタイム労働法でも、「短時間労働者」といっていますが、決してパートタイマーとはいっていません。

 先ほどのバイト君もそうですが、何気なく使っている言葉が、実は、ほんとうは何なのだろうと好奇心を駆り立てられることが多々あります。

〜直球が飛んできた!〜

 先日、顧問先から「ところで、パートタイマーって何ですか?」と、直球が投げかけられてきました。

 私は、「働く時間がフルタイムでなくて、パートタイムの人たちのことです。」とお答えしました。そして、「通常、正社員の人は1日8時間働くので、5時間とか6時間働く人のことです。」と付け加えました。

 次に、こちらから「1週間に何日位働きますか?」と投げかけ、「3日か4日、中には5日の人もいます。」との返答をいただいたところで、1週間の所定労働時間の話に移ります。

 本当は、「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比し、短い労働者です。」と言うべきでしょうが、こんな事を言ったら、「いきなり何なんですか?あなたは歩く六法全書なんですか?」とお叱りを受けてしまいそうです。

 そう言われないよう、日頃から表現方法には気をつけておきたいものです。

〜パートはどうして時給?〜

 正社員は月給でパートタイマーは時給という仕組みは、一体いつごろできたのでしょう?
給与計算をするときにも、当然のように月給○○円、時給○○円と、給与マスターに登録していましたが、幸いにもこれまで「どうしてパートタイマーは時給なのですか?」と質問されたことはありません。

 法定労働時間だとか、会社の所定労働時間だとか、労働時間が決まっていて働いた時間に対して賃金を払うということから考えると、正社員もパートタイマーもみんな時給ではいけないのでしょうか。仕事の内容や能力によって時給に違いをつける方が、ひょっとしたら「合理的」なのかも知れません。

 逆に、1日8時間働く正社員も、1日6時間働くパートタイマーもどちらも月給制という発想もありかも知れません。

 確かに、曜日によって勤務時間が違うパートさんに月給制は変かも知れませんが、月で平均して考えたら、それなりの金額は設定できるようにも思えます。

〜通常の労働者って?〜

 改正パートタイム労働法の中に、"通常の労働者への転換"とか"通常の労働者との均衡"とか「通常の労働者」という言葉がしきりに登場してきます。

 日常使われている正社員のことを言うのでしょう。では、パートタイマーはどこが通常ではないのでしょうか。

 通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止(法8条)
事業主は、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下、「職務の内容」という)が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者(以下、「職務内容同一短時間労働者」という)であって、当該事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているもののうち、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(以下、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という)については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。

 正社員と同じような働き方をしているパートタイマーに対して、パートタイマーだからといって差別的取扱いをしてはいけませんといっています。

〜ほんとはすごい、パートさんたちの底力〜

 工場で製品を作っているパートさんたちのお話です。いくつかのグループに分かれ、時間ごとに次々と仕事の内容を変えていきます。同じ事をやり続けるのと違い、このようなやり方をすると間違いも少なくなるでしょうし、また、新鮮な気持ちで次の仕事に移るので能率も上がってきます。

 その手際の良さを見ていると、もし私が入ったらたちどころにラインが止まってしまうなあと感じました。

 このパートさんたちが居なかったら、主力製品が作れなくなってしまいます。大企業でしたら、完全オートメーション化もあり得ますが、中小企業ですと人の力はなくてはならない存在です。

 先ほどの、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者・・・」のなかで、同じような働き方をしているかどうかを比べるときに、「責任の程度」というのがありました。

会社からも「適当に仕事をしてください。」とは言われないでしょうし、パートさんたちからも「無責任に仕事をします。」と言う人は決していないと思います。

 勿論、このようなことを意味している訳ではありませんし、パートさんたちが一生懸命に仕事をしているのも事実です。

 パートタイマーは、働く時間が"パート"で、正社員は"フル"でした。

違いが、働く時間の長さだけだとしたら、ひょっとして、この"底力さんたち"の方が「通常の労働者」なのかも知れません。

『短時間労働者と同視すべき通常の労働者』なんて逆に言われないよう、正社員も気を引き締めなければいけないかも知れませんね。

≪最後に≫

 以前、友人に初めてボート釣りに連れて行ってもらったときのことです。釣り糸を垂れると、「キス」「ほうぼう」「あいなめ」「たこ」などなど、7目もの魚を釣り上げてしまいました。正に、おもしろいように魚が釣れました。

 この連載の前回を担当された松岡先生が、「マッちゃんよぉ、連載のタイトル、変えたほうがよくね〜かぁ?」でプラス思考のお話をされていました。
 私も、「アメさんよぉ、・・・」と同様のお言葉をいただきました。

 相談事を解決できて顧問先の晴れ晴れとした顔を見たときには、こちらも嬉しいですし遣り甲斐を感じますが、さっきの話あれで本当に良かったかななど、後から考え直してみることもあります。

 お仕事ですので、ボート釣りのように"おもしろおかしく"という訳にはいきませんが、楽しむ気持ちを忘れないよう前向きに考えるようにしたいと思っています。

次回は、残業についてお話する予定です。
第7回に続く