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(第4回):雨宮直樹先生



 こんにちは、社会保険労務士の雨宮です。
 新年を迎え、気分も新たにスタートされたことと思います。本年もよろしくお願いいたします。さて、今回のテーマは、労働契約についてです。
 それでは、早速お話を始めることにいたしましょう。

 社員を募集したいと考えたとき、会社の担当者は地元のタウン誌やハローワークに求人を出し、入社したいと思っている人は求人票を見て応募します。
 応募する人は履歴書や職務経歴書をその会社に送り、会社は、その書類の中から会って話をしたいと思う人と面接をします。
 面接の結果、「この人にしよう」と決めたら、その人へ採用が決まったことや、出社の日などを連絡し、その日になると本人が出社してくることになります。

 晴れて採用が決まったAさんは、一体何時に会社へ行けばよいのでしょう。会社に着いたら何の仕事をしたらよいのでしょう。夕方になり、周りの人たちが帰り支度をしているのを見て、帰るのでしょうか。分からずじまいでは困ってしまいます。

 Aさんが会社で働くということは、その会社と契約が成立したからということになります。
 契約というと、売買契約、賃貸借契約、リース契約など様々な契約が浮かびますし、実際、売買契約書などを目にする方もいらっしゃると思います。

 では、Aさんは契約書が無いと働くことができないのでしょうか。


≪契約の成立について≫

 契約は、お互いの意思表示の合致で成立します。例えば、売買契約の場合、この品物を○○円で売りたいです、分かりました○○円で買いましょう。これで契約成立です。ただ、口約束だけで済ませるということは普通はあり得ませんので、売買契約書を作成することになります。
 同じように、御社で働きたいです、分かりました働いてくださいで労働契約は成立です。さすがに何でもします、給料はいくらでも構いませんという人はいないと思いますが、契約自体は成立ですので、契約書が無くても働くことはできます。

 契約の中身が労働条件です。仕事の内容は何なのか、給料はいくらもらえるのか、お休みはいつなのかなどです。応募した人は、求人票を見ているので見当はついているのでしょうが、会社としては労働契約の中身を本人に伝えなければなりません。これが、労働条件の明示です。

 ところで、「労働条件の明示」って、硬い表現だと思いませんか?特に、「明示」はいかがでしょう。文字で表しても、言葉で表しても相当硬いですよね。
 明示は、"明らかに示すこと""はっきり示すこと"ですので、「どのような条件で働いてもらうかを、分かりやすく示すこと」となりましょう。
 極めつけは、絶対的明示事項と相対的明示事項ではないでしょうか。私達社労士にとっては当然の用語ですが、聞く方にしてみればかなり硬い表現だと受け止めることでしょう。
 書類をお渡しするときには、この絶対的明示事項と相対的明示事項をタイトルに使うこともありますが、その場合には、やさしい表現を付け加えるようにしています。
 そして、相対的明示事項の方は、明示しなくても良いのでない点をきちっとお話します。


労働条件の明示(労基法15条)
 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。


 賃金や労働時間などの労働条件は、その内容をはっきりと書いた書面を交付して明示しなければいけませんということですので、労働条件を示すということから言えば、労働条件通知書ということになります。条件がはっきりと分かれば良いことですので、この「通知書」で要件は満たすことになります。


≪労働契約書について≫

 労働条件通知書であっても、互いに合意していれば良いのですが、どうしても一方的なイメージがありますので、私の場合、労働契約書として双方で署名捺印していただくことにしています。
 後になって、そんな事聞いてない、いや、そんな事いってないとならないよう契約書の形をお勧めしています。
 結果としては、通知書であっても契約書であっても同じことかも知れませんが、やはり、納得の上誤解のないよう仕事をして欲しいと考えているからです。

〜労働契約法が誕生しました♪〜

 働き方のルールをはっきりさせましょうという視点から労働契約法が誕生し、いよいよ施行されることになりました。
 労働契約は「合意の上結んだり変更してくださいね」とか「契約は誠実に実行しなければいけません」などと規定されていますので、その一部を見ておくことにしましょう。

労働契約の原則(労働契約法3条)
労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
労働契約は、労働者及び使用者が就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

 「〜すべきものとする。」となっていますので、「〜すべきだから、〜してくださいね。よろしくお願いします。」ということだと私は考えています。
 「〜しなければならない。」とか「〜あってはならない。」というと、お願いの域を超えて義務ということになりましょう。
 そして、「労働者及び使用者」とありますので、「お互いにそうしましょう」と言っているのだと思います。

 確かに、罰則規定は設けられていませんので、違反したからといって罰金とか懲役とかはありませんが、じゃあどうでもいいやとなってしまっては折角誕生した労働契約法が可愛そうです。

 対等の立場における合意と言っているように、契約を結ぶ時には、その内容をよく確認し合い、お互いが納得した上でサインしてもらうのが何よりかと考えています。


≪契約の変更について≫

 次は、年俸制のBさんのお話です。
 プロ野球で、よく来シーズンに向けて大幅アップでサインしたとか、越年交渉になったとかの話題を耳にすることでしょう。
 1年間の成績が良ければ球団の資金繰りや本人の貢献度によって年俸もアップするでしょうし、逆の場合はダウンすることになるでしょう。
 年俸大幅ダウンの場合は、野球協約に減額制限が決められているようです。

 もう、かなり昔の話ですが、年俸制の人って年に1回しか給料を貰えないので、取りあえず貯金しておいて必要な時に引き出すのかな、源泉税も一杯かかるのかななどと素朴な疑問を持っていたことがあります。
 今となっては笑い話ですが、当時労働基準法など全く知りませんでしたので、本気でそう思っていました。
 さて、この年俸制のBさんも、金額が当然のことのように変動して良いのでしょうか。特に、年俸が下がる場合です。

 成績が悪ければ年俸が下がっても仕方ないなと思うでしょう。では、予期した以上に下がったらやはり仕方ないなと引き下がってしまうのでしょうか。

 本人が引き下がるかどうかは別として、この「予期」にどうやら問題がありそうです。年俸が下がるということは契約の変更ですので、そのためのルールが必要になってきます。
 Bさんが予期していないということは、就業規則や人事評価制度などのルールがないことになります。


≪ルールを決めておきましょう≫

 就業規則の年俸規程に、年俸の対象者や計算期間、それに年俸の体系や改定などについて決められていなければなりません。年俸はいつ改定するのか、増額する場合、減額する場合などについて規定しておきます。
 人事評価制度に基づいて、増額したり減額したりすることになりますが、「鉛筆なめなめ」では社員の納得は得られないでしょう。「どうせ、うちの社長・・・」こんな声が聞こえてきては元も子もありません。

 ルールが決まっていれば、予期せずということはなくなりますので、後は本人が納得するかどうかの問題ということになります。

 プロ野球の世界でしたら、本人も打撃不振で打率が低かったことが分かっていたり、テレビで中継されることも多いので誰の目にも活躍ぶりがはっきりとします。

 会社の人事評価の場合、仕組みを作ることも大切ですが、その仕組みをどう生かすかが更に重要だと考えています。
それは、評価を本人にフィードバックすることです。何をどのように評価されたのかが分からなければ、本人も納得できませんし、納得できないとモチベーションも上がりません。


≪会社の考えを伝えましょう≫

 評価に限らず、会社として本人に何を期待し、何を期待していないか、どういう社員になってもらいたいかをはっきりと伝えることが大切ではないかと思います。
労 働契約が成立すると、労働者は働く義務を負いますし使用者は賃金を支払う義務を負いますが、「義務、義務」とだけ捉えると、上から言われるから仕方なく仕事をする、遊ばせておくのはもったいないから仕事をさせる、仕事をした以上仕方ないから給料を払うということになってしまいます。
 縁あって同じ建物の中に居るのですから、どうせなら「期待」「評価」をはっきりと伝えたほうが、働く方もやりがいがあるのではないでしょうか。

 年俸制に限らず、昇給についても同様のことが言えます。誰しも給料が上がることは嬉しいものでしょうし、特に2階級特進などしようものなら、嬉しくて仕方ないでしょう。
 ただ、この喜びも束の間で、暫くすると昇給したことを忘れてしまい、その金額を基準に考えるようになってしまいます。
 そこで、なぜ昇給したのか、なぜ2階級特進なのかを本人にはっきりと伝えることが大切です。業績に目を見張るものがあったのか、期待を込めてのものなのかを話しておく必要があります。そうすれば、本人も納得して仕事に精を出してくれることでしょう。


≪最後に≫

 労働契約法でも、信義誠実の原則とか権利濫用の禁止とか謳っています。
労働契約で始業時刻が午前9時となっているのに、10時に出社したのでは信義誠実とはいえないでしょうし、毎月20日が給料の支払日となっているのに、25日に支払ったのではやはり信義誠実といえないでしょう。
 今回、解雇のお話には触れていませんが、就業規則の解雇事由に該当していても権利の濫用で解雇を無効とした判例もあります。

 お互いにルールを守って、自分も楽しく、周りも楽しく、そして、会社も楽しく業績が伸びていくのが理想の姿ではないかと考えています。
 現実はなかなか難しい面もあろうかと思いますが、日頃からコミュニケーションの欠かさない職場は、社員のモチベーションも高いように思います。

 次回は、パートタイマーについてお話する予定です。
第5回に続く