| 真島社労士塾トップ > 実務はこんなにおもしろい!> 第2回 | 真島社労士塾 | |
こんにちは、社会保険労務士の雨宮直樹です。 恩師の真島伸一郎先生からお話をいただき、今回から隔月で担当させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
そろそろ、本題の実務の話に移りましょう。 テーマは、「出産にあたって」です。 書店に足を運ぶと、「○○の実務」「○○の手引き」「○○の手続き」といった実務書がたくさん並んでいます。それには、○○の記載の仕方、必要な添付書類、提出の順番など事細かに書いてあります。 例えば、社員を採用したときには「被保険者資格取得届」に氏名や生年月日、基礎年金番号などを記入し社会保険事務所へ提出しますが、そのような書類の書き方や手続きの仕方は別として、これからのお話は私が事案に当たったとき何をどのように考え対処しているのかについて進めて行きたいと思います。 人事担当のJさんは、ある日、出産を控えた女性社員Aさんからこんな質問を受けました。
こうして、Jさんが私のところへ相談にやってきました。 まず、何の相談なのか話をお聞きしなければなりません。当然と言えば当然なのですが、内容を把握することがスタートです。そのためには、的格な質問ができなければなりませんが、田原総一朗さんの著書の中に次のような一節がありましたのでご紹介します。 「僕は世の中に嫌いな人っていないの。とにかく人間というのが好きなんだ。だから誰と会っても、まずその人の魅力を探りたいと思う。魅力というと言葉がきれい過ぎるかも知れないけど、まあおもしろいところかな。誰だってなにかしらおもしろいところがある、それを見つけて引き出したい」 著者のこの言葉を、私は勝手に「質問力」と呼んでいます。相談の内容を把握することとはちょっと違うかも知れませんが、発想としては同じではないかと思っています。 そして、とにかく気持ちよくしゃべっていただかなければ先に進みません。いかにして気持ちよくお話していただけるかですが、そのためには、こちら側はとにかく耳を傾けるという姿勢が大切になってきます。耳を傾けてくれる相手に対しては、自然と話したくなるものではないでしょうか。そうすると、本題以外にもその背景や問題点などに話が及ぶこともあります。どんどん話が膨らんでいきます。労務管理って、もしかしてこういう事かななどと考える時もあります。話を元に戻します。 相談を受けた私は、産前・産後の考え方や出産手当金、出産育児一時金、それに育児休業給付金などについて概略の説明をし、後日わかり易い説明資料をお届けすることにして、その日はお帰りいただくことにしました。 相談を受けたときに、私が心がけていることがあります。それは、確かなことは2つでも3つでも即答するということです。 そして後日、補足説明をしたり、抜け落ちていた部分の確認をして追加のお話をします。 早速説明資料の作成にとりかかりました。そのときには、思いつく限りの法律を再度確認することにしています。必ずしも全てが要求されるわけではありませんが、自分の頭の整理(棚卸)の意味も含め、目を通すことにしています。 産前・産後休業、出産手当金、出産育児一時金、育児休業基本給付金、育児休業者職場復帰給付金などを確認しました。 ここで大切なポイントがあります。それは、お客様は法律の話を聞きたいわけではなく、会社としてどう対応したら良いのか、社員に何をどのように説明したら良いかということに関心を持っているということです。 このポイントをずらさないために私が常日頃心がけていることは、専門用語はできる限り使わないようにしているということです。また、なるべくイメージが湧くように、場合によっては図を使ったりします。例えば、ハローワークや社会保険事務所、労働基準監督署などへ行くとパンフレットが置いてありますので、それを利用したり要点の箇所だけ作り直したりしてお見せします。そうすると、言葉で話すのより格段にわかってもらえます。 産前産後休業(労基法65条)
会社勤めをしていれば、友人・知人との何気ない会話でも、「そういえば○○さん、お腹大きかったけど、来月から産休に入るんだって。確か、産前が6週間、産後が8週間って言ってたよ」など、労働基準法に決められていることなど知らないまでも、普通に聞かれることではないでしょうか。 そこで、私は次の3点に着目しました。 ≪産休はいつからいつまでか≫ どこを境に産前、産後となるのか、出産予定日はあくまで予定日なので、出産が早まったり遅れたりした場合はどうなるのか、という点です。そして、一番大切なのは、ご本人であるAさんが一体いつから産休に入り、いつまで休めるのかを明らかにするという点です。そのためには、出産予定日を教えていただく必要がでてきます。 ≪働いて良いのかいけないのか≫ Jさんより、産前は出来るだけ働きたいとのご本人の希望をお聞きしていたので、「請求した場合」という意味と「産後6週間」の扱いの違いを明確にしようと考えました。本人が、休みたい、働きたいと会社に言ってきたときに、「分かりました、いいですよ」と答えて良いのか、「その期間は働いてはいけませんよ」と答えなければいけないのかをはっきりさせてあげようと思ったのです。 ≪給料や勤続年数は≫ 休んでいる間、Aさんは果たして「給料はもらえるのか?」その間は「勤続年数に含まれるのか?」という点については、就業規則を確認することも必要になってきます。 このように、「出産」という出来事にかかわって説明しなければならない事項はいくつも挙げられます。更に、給与計算において、仮に「無給」だとした場合、月々控除している社会保険料や雇用保険料それに住民税は一体どうなるのか、などもあります。 いかがでしょう?実務の世界では、一つの相談事に対してこのように様々な対処すべき事柄がかかわってくるのです。絶えず頭を「フル回転」させておく必要があるということになります。 出産手当金(健康保険法102条)
ここで着目したのは、専門用語をどのように話すかという点です。 ≪使ってはいけない言葉≫ 「標準報酬〜」この言葉は、実務の世界では使ってはいけない言葉の一つだと私は考えています。話は分かり易く相手に伝わらなくてはなりません。他にも、「標準報酬月額」「総報酬月額相当額」「標準賞与額」などなど、受験の世界では絶対把握していないといけない専門用語は、実務の世界では避けた方が良いと思っています。 ≪標準報酬日額はこうなります≫ おおよそ月々の給料を30で割った金額のことだとお考えください。交通費や残業代があれば、それも含まれてきます。半年定期の場合は、6で割った金額を足します。正確には、月々の給料ではありませんが、余程大きく変化しなければその金額を目安にしてください。いろいろ足す金額はありますが、一言でいうと月給の30分の1のことです。 この程度にとどめておきます。取得時決定、定時決定、随時改定、更には保険者算定までを考慮して正確に表現しようとしたら、それだけで聞いている方は疲れてしまいます。 そこで、先ず概略を話し、「それって一体何?」を伝えます。 出産育児一時金(健康保険法101条)
≪出産したときは、〜が支給される≫ 子供が生まれたら、請求すれば35万円もらえるというわけですが、通常は、病院を退院するときにお金を支払い、後で請求するということになります。事前に申請しておけば、退院時に全額支払わなくても、差額だけの支払で済ませることができる場合があります。Aさんの心配事の一つは解決できることになります。 私自身、この制度を初めから知っていたわけではありませんが、勉強会に参加したりしていつもアンテナを張っておくと、あるときに役に立ったりすることがあるものです。この制度も、その一つでした。 最後になりますが、話は「よく聞く」こと、かつて勉強したことの「棚卸」を繰り返すこと、絶えず何か変わったことはないかと「仕入」を怠らないこと、これらが、私がいつも心がけていることです。 次回は、労働契約についてお話する予定です。 |
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| 第3回に続く |