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(第1回):松岡勇人先生



 はじめまして。

 今月より隔月で連載を担当します社会保険労務士の松岡勇人(マツオカハヤト)です。

 この連載を読んでくれる皆さんは、たぶん社労士を目指す受験生の方だと思いますが、社労士の答案練習、模擬試験、本試験の得点アップには残念ながら全く関係ありません。

 でも、受験勉強のチョッとした合間に読んでください!
 読んで頂いたところで受験勉強の得点アップには貢献しませんが、この連載を通じて社労士という仕事に対してさらに関心を持ってもらったり、社労士の仕事って大変なんだなぁ〜、等々、感じ方は様々だと思いますが、何かしら感じてもらえると思います。

 この連載を読んでくれる皆さんは、社労士を目指す受験生の方で、しかも、合格後は、事務指定講習を受講したのちに社労士登録をされる方、言い換えれば、実務経験が全くない方が多いと思います。つまり、日頃、社労士とは関係ない仕事をしていて、自分が日々勉強し、目指している社労士という仕事について、書籍等を通じてどんな仕事をするのかはイメージが湧いても、実際のところの社労士はなかなかイメージできていないのではないでしょうか(私も実務経験が全くない、事務指定講習組でしたので、実際のところギャップ?がかなりありました)。

 この連載では、こんな受験生の方に読んで欲しいのです。
 受験生のうちから、社労士のことをいろいろと知っておいた方が受験勉強にも熱が入るのではないでしょうか(反対に嫌気が差してしまうこともあるかも・・・)?

 偉そうなことを言っている私自身も、受験生の皆さんよりほんの数年前に合格したばかりで、まだ若葉マークが付いた社労士です。ベテランの社労士先生の方々に言わせれば、「松岡君、社労士の仕事の全体像も見えていないのに、『社労士とは、何ぞや』を語る資格はないよ!」と言われてもしようがない、まだそんなレベルの社労士です。

 私自身も『社労士とは・・・』を語れるほどの身分ではないと思っていますが、今回、私が受験生時代からの恩師である真島伸一郎先生より依頼があり、僭越ながら連載(連載と呼べるレベルになるかわかりませんが・・・)を担当することになりました。

 この連載では、特に、実務経験が全くない方が、速かれ遅かれ同じ経験や類似の経験するであろうと思われることを中心にお話していきます。なお、最初にお断りしておきますが、この連載について、他の社労士の先生がどのようなご意見を持つかは私の関知するところではありません。

 第1回目の今回は、【連載の依頼】と【社労士に至るまでのプロフィール】から始めることにしましょう。なお、連載という形式を取っていますが、各号にストリー性があるわけではないので、目にとまったところから、お付き合い頂ければ幸いです。


【連載の依頼】

 今から1年ぐらい前のことでしょうか。飲み会の席で真島先生より「実務の視点から何か真島社労士塾のホームページで連載を書いてもらえないだろうか」との依頼。このときは、「まだまだ、実務を語れる身分ではないですよぉ!」と丁重にお断りし、連載のお話はなくなった。

 そして今年の8月、またも飲み会の席で1年前と同じ内容の依頼。
今回は、断らず、なぜ依頼を受けたのか?
"実務を語れる身分ではない"のは、1年前と同じだったが、今の状態でも何か語れる部分があるだろうと思ったからです。

 "今の状態でも何か語れる部分?"って何?
 若葉マークの部分だな!若葉マーク=新人。野球に例えるならば、今の私はプロ野球の2軍選手。ベテランの先生はプロ野球1軍で活躍する選手。

 1軍で活躍されている先生方のお話は書籍等で読む機会はあっても、たぶん2軍選手の話を読む機会はなかなかないでしょう。1軍で活躍されている先生方のお話が意味がないと言っているのではありません。レベルが高すぎるのです。今、1軍で活躍される先生に2軍時代の話を語ってもらっても、美化されてしまったり、この先生にも本当に2軍時代があったの?と思ってしまうくらいボケた話になってしまいます。

 活躍されているベテランの先生も最初から1軍選手ではなかったハズ。2軍でモガイたり、ヘコンだり、色々な経験を経て1軍へ上がるのです。活躍されている先生方と受験生の皆さんをつなぐ2軍の話は、1軍を目指し頑張っている2軍の社労士に語ってもらった方が良いのです。こう考えれば、この連載を読むのも、有意義だと思いますよ。


【社労士に至るまでのプロフィール】

 昭和43年7月生まれ(まだ、介護保険料を払っていないので、社労士のなかでは一応若いです・・・)。大学を卒業後、約10年間、大手小売業で販売の仕事をしていました。販売の仕事そのものは、大変楽しく、お客さんに対して商品説明を超えた商品のご提案をするアドバイザー的な接客をすることで、販売という仕事に対してやりがいを感じていました。

 入社して3年ぐらいは楽しく仕事をしておりました。平成5〜6年頃、どこの会社でも多かれ少なかれ影響はあったと思いますが、バブル崩壊の影響が数年遅れで私の職場にも現れました。バブル崩壊の影響で会社の業績が傾きはじめ、私の労働条件の悪化が始まりました。毎月、会社全体で多くの社員が退社していきました・・・退社しても人員の補充がありません。

 そして私の担当する仕事は増加、最後の2年間は、1日の所定労働時間15時間超は当たり前でした。休日は週1回あれば良い方です。もちろん残業手当はありません!給与明細の時間外手当の欄は、常に空欄です。年次有給休暇も10年間で1日も使ったことがありません(正確に言えば取らせてもらえなかった)。

 当時は社労士としての知識は全くありません。知識がないというのは怖いものです。法律に違反しているのだろうとは、思っていましたが、具体的に何がどのように違反しているかわかりません。本屋で一般読者向けに書かれた労働基準法の書籍を読んでみても、なんとなくわかったような感じになるだけです。しかも日々の仕事に追われ、考えるゆとりすらありませんでした。

 さすがに所定労働時間15時間超を2年近く続けると、いくら若くても体調に異変が生じてきます。こんな状態を続けたら、もしかしたら、過労死するのではないかと思うようになりました・・・若い人が危険な仕事をしている訳でもないのに、仕事をしていて"死"を感じるのは異常です!・・・過労死はまだ先の話でも今の状態で"棺桶に腰までは入ってるなぁー"と思うようになりました。本当に棺桶に横たわる前になんとかしなくては・・・。

 この頃になると、仕事に対してやりがいを感じることもなくなり、体調にも不安を感じていましたので、転職を考えるようになりました。転職を考えたところで、自分は何に向いているのだろうか、何をしたいのか、と3年以上悩みました。色々な人に相談もしましたが、結論はでません。

 転職活動もしましたが、なにせ景気が悪い頃で、同業他社では評価をもらえたものの、小売業という業界にはもう就きたくないので、他の業界へ転職するには何か資格とか能力がないと評価の対象になりません。

 それなら、何か資格でも取って、その資格を使って仕事をしよう!

 結果として、数ある資格の中から、社労士を取得してみようということになったのですが、その理由はたくさんあるのですが、そのうちの1つをお話しましょう。

 経営学で、経営の4要素とか4資源と呼ばれているもの=人・物・金・情報があります。
この中で一番大切なものは何か?との質問に皆さんはどのような回答をするでしょうか?
「地獄の沙汰も金次第」とか、「金の切れ目が縁の切れ目」などの諺があるので、「金だよ」と考える人もいるでしょう。何が大切かは、人によって様々だと思います。

 この質問に対して私の回答は、「物を作っているのも、情報を発信するのも、金を使うのも、全て人が行っている。つまり人を中心に他の3つの要素が成り立っている。経営の4要素で一番重要なのは、人だ!」という結論に達しました。

 人という結論になったのは、私自身、過酷な労働を強いられ、「人」を大切にしない労働環境の下で、10年間のサラリーマン生活を送ったからだと思います。

 労働が、"牢働"ではなく、"朗働"になるよう労働環境を整えるような仕事がしたい!・・・アドバイスやコンサルタントをしたいということで、社労士という資格に至りました。


【「先生」と呼ばれる・・・】

 皆さんは、「先生」と呼ばれたことはありますか?
学校の先生や大変偉い人に対して先生というということはあっても、自分が「先生」と呼ばれると最初は違和感があります。皆さんが会社員で部長や課長という役職についていれば、役職名で呼ばれることはあっても、「先生」と呼ばれることはなかなかないのではないでしょうか。

 社労士として仕事を始めると、周囲の人から「先生」と呼ばれます。顧問先に行っても、ハーロワークや監督署に行っても、また社労士の勉強会に行っても、「先生」と呼ばれます。皆さんも必ず先生と呼ばれますよ。最初は照れくさかったり等の違和感がありますが、だんだんと先生と呼ばれることに慣れてきます。

 初めて、私が「先生」と呼ばれたときのお話をしましょう。
通常は40名ぐらいの社労士の先生で勉強会の会場が満席になるところが、ある日、台風の影響で、10名くらいの参加者しかいないときがありました。講義中、講師が、参加者に意見を聞いていきました。通常ならば、私に当たるわけもないのですが、この日は参加人数がたったの10名。

 「〜について、松岡先生は、どのようなご意見をお持ちですか?」

 このとき、私はどのように思ったのかというと、"へェ〜、この勉強会には、松岡さんという先生が、私以外にももいるんだぁ"とあたりをキョロキョロとしてしまいました。すると、講師が、もう一度私の方を向いて、「松岡先生、どのようなご意見をお持ちですか?」と。

 "松岡先生って、もしかして、もしかして、私のこと・・・" 今までの人生のなかで、先生と呼ばれたことのない私にとっては、とても新鮮かつ照れくさかったことを覚えています。

 その後も、ハローワーク等に書類を提出に行った時も、社労士バッジを付けてれば「松岡先生」と呼ばれるので、最初は戸惑ったり、照れくさく感じるときもあったのですが、慣れますよ。

 「先生」と呼ばれることに慣れてくる頃でしょうか、「先生」と呼ばれることに対して別な感じ方をするようになります。「先生」と呼ばれるからには、色々なことを知っていなければならないし、発言そのものにも責任が伴います。社労士と税理士の区別もできない顧問先の社長さんや担当者は多いので、何を尋ねられるかはわかりません。若葉マークが付いていても、顧問先の社長さんや担当者の方には関係ありません。適当に回答する訳にはいきませんから、顧問先からの電話や訪問が怖くなるのです。この怖さへの対処法は社労士によって様々でしょうが、経験を積むしかないと私は思います。

 なお、先生という言葉は、この業界では、大変便利な言葉です。
例えば、社労士同志では、一度、名刺交換をしたあと、次回にお会いしたとき、名前が思い出せないといことはよくあることだと思います。仮に、"○×先生"の"○×"が思い出せなくても、「先生」と言っておけば、問題が生じることはありません。


【わかりやすい言葉で】

 皆さんは、受験勉強を通じて、社労士としての知識を学びます。合格後は、さらに勉強して専門性を高め、難しいことをたくさん知っています。しかし、その難しい知識は、顧問先の規模にもよりますが、社労士が多く関係する中小・零細企業の顧問先では役に立ちません。難しい知識が必要でないと言っているのではありません。顧問先の社長さんや担当者の方には、社労士の知識はありません。難しい専門用語を会話のなかで、使っても理解してもらえないのです。

 賞与支払届の件で、顧問先からの電話を受けたときのことです。
「社会保険事務所から賞与支払届が送られてきたんだけど、賞与って何ですか?」と。
「・・・・・・、ボーナスのことです」。
こんなことも通じないことがあるのです。

 失業保険と言えば通じますが、基本手当はまず通じません。このような例は、枚挙に遑が無いです。

 難しいことを難しく説明するのはさほど難しいことではありませんが、難しいことを平易に説明するのは難しいです。難しい知識や専門用語を如何に平易な表現で伝えられるか、社労士として必要な能力の1つだと思います。

 チョッと話は逸れますが、中小・零細企業の顧問先のなかには、勉強家の方がいて、難しい専門用語を使っていることがありますが、この場合は注意が必要です。やはり社労士ではないので、難しい専門用語を間違った意味で使用していることもあるからです。

 次回は、【就業規則】、【年次有給休暇】についてお話することにしましょう。

 では、次号をお楽しみに!
第2回に続く